釉彩の技
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向山 文也氏
独自の象嵌釉彩による紋様作品。
緻密なロクロを中心に成形した端正なかたち。
あたたかみのある象嵌紋様と、 8種類の釉薬と酸化金属による、 有機的な色彩をみせる釉彩。
魅力あふれる象嵌釉彩の 制作工程を工房に訪ね、 その技を見せていただきました。
向山 文也 略歴
1960年 東京生まれ
1983年 日本大学法学部卒業
1884年 京都府立陶工訓練校卒業
萩焼窯元十五代坂倉新兵衛に師事
1985年 滋賀県膳所焼窯元にて作陶
1988年 東京青山栗田クラフト陶芸教室講師
1990年 栃木県益子町に工房M’s Placeを設立
1993年 栃木県烏山町に工房を移築
1994年 象嵌釉彩波状紋壺 宮内庁買上
2000年 「千年の扉」展出品 於栃木県美術館
2005年 現代茶陶展 織部銀賞
【入選】
日本クラフト展 陶芸ビエンナーレ
伝統工芸新作展 現代陶芸〔めん鉢〕大賞展
益子陶芸展 北関東陶芸展
現代茶陶展
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成形 紋を描き象嵌釉彩(ぞうがんゆうさい)するため、表面が滑らかになるように削ります。
高台を削り、高台内に「ふ」のマークを陶印します。「ふ」マークは象嵌釉彩作品に用い、「文」マークは白化粧作品に用います。
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境紋釉彩 境紋
描 き
下描き
高台や表面を削り成形した直後の茶碗を6等分、8等分などの分割線を書いた手ロクロに置き、紋様を描く目安を筆ペンを使って下書きします。
溝
描き
紋様の基本図形となる円形と小さな丸を、手近な道具を使い、化粧土を象嵌する溝を掘りこみます。
この赤い瓶の蓋は、大きさがちょうどよく、曲面にもフィットするので重宝です。この蓋の丸の間には、パイプを使って小さな丸の溝を掘り空間を埋めます。
溝
仕上
象嵌をきれいに仕上げるため、鉋(かんな)を使ってバリをとります。
さらに溝のエッジを滑らかにし、適度な深さにするため、キリを使って溝を成形します
紋様描き
象嵌の線が直線だけで単調にならないように、裁縫用のルレットを使いミシン目の縦線、横線、斜め線などを組み合わせて様々な紋様を刻みます。
紋様をどのように入れるかは、隣り合わせや反対側をイメージしながら決めていきます。
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象嵌
化粧
象嵌紋様描きで彫った溝やミシン目に対して、天草陶石単味の化粧土を、刷毛を使って軽くたたくような感じで象嵌(埋め込み)します。
象嵌
仕上 化粧土が少し乾燥したら、手ですり込みます。 同時に余分な化粧土を落とした後、蚊帳(かや)布をこすりつけきれいに仕上げます。
以前は鉋(かんな)を使っていましたが、蚊帳布を使ってきれいに仕上げます。大きな蚊帳をご近所からいただきましたのでしばらくは使えます。
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ロウ掛け
全体
釉掛け
素焼 紋様の外側に全体の釉薬をかけるため、紋様上のロウ抜きを行います。ロウ掛けをする前に撥水材を使って、紋様のエッジと釉薬部分をきれいに掛け分け、ロウを塗ります。
この茶碗は白マット釉を全体にずぶがけ掛けした後、750℃程度で素焼してロウを飛ばします。
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釉彩 紋様マスキング
素焼しロウが飛んだ状態で、モザイク状の紋様に釉薬を掛けていくために、象嵌部分には釉薬がかからないよう、象嵌の上を撥水材(はっすいざい)を使ってなぞります。
釉彩
釉彩には8種類(8色)の釉薬を掛け分けます。
1つの紋様には2種類の釉薬をさしますので、紋様が4面あれば8色の釉を1回づつ使い、6面であれば8種類の釉薬を合計12回使うという具合にパターンを決めています。
どこに何をさすかは全体のバランスを考えながら、その場で決めていきます。
釉彩は、白マット釉、チタン釉、黒マット釉、鉄釉、鉄マット釉と、酸化金属の酸化チタン、鉄(ベンガラ)、ゴスの8種類の釉薬と酸化金属を使います。
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本焼 写真の紋様は違いますが、使ってる釉薬は同じものの面です。 焼成前と焼成後を見比べると色合いの変化、大きさの変化がわかります。
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●象嵌釉彩はどのように生まれた?
もともと釉薬を掛け分けて器を作っていました。
掛け分けといっても釉薬が交じり合うのではなく、
それぞれの釉薬がはっきりとモザイク状になるように
意識して制作していました。
茨城県大洗海岸に昇る初日の出と、それを映す波しぶきを見たのですが、
このときの強い印象が、波状紋のモチーフとなりました。
太陽の「黄」、波しぶきの「白」、海の「黒」を
表現してみたくなったのです。
私にとっての象嵌は、その技法を用いることが目的ではなく、
釉薬を紋様として描き分けるための区切りを鮮明にする手段となっています。
この「太陽」、「波しぶき」と「海」を、釉薬を用いて描く釉彩と、
それぞれをきっちりと分離するための象嵌を組み合わせることで、
象嵌釉彩波状紋が生まれました。
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●今後はどのような方向に?
波状紋をはじめ、
バリエーションとして幾何学的な境紋や、
干支や季節を図案化したものなどを作っています。
もっともっといろいろなことができると考えています。
象嵌釉彩は好きですし、今後もこれを拡げていきたいのです。
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●お客さまへのメッセージ
とにかく使ってみていただきたいです。
湯のみひとつ、作家ものですと数千円からするのですが、
100円ショップに行けば、ワンコインで買うことができます。
日常使うもので、割れちゃうものだからそれでいい。
といこともあると思います。
食事は毎日のことだからこそ、気に入った器を使うということで、
よりおいしくごはんをいただくということもあるでしょう。
家庭の中に丹念に手作りされた器があれば、
壊れるものだからこそ、
大事に使う気持ちが生まれるのではないかと思うのです。
器にお金をかけるということは贅沢かもしれませんが、
大事にしたいものだと思えば、丁寧に扱うはずだし、
それを見ている子供は、大事なものの扱い方というのか、
きちんとした所作みたいなものが、自然と身に着くのではないでしょうか。
丹念に作られたもので、
暮らしに彩と、ものを大事にする心を持っていただけるような、
そんな器づくりができるといいなと思います。